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2009年1月

サマー・バレンタイン #4

今夜のうちに全部のチョコレートを平らげて、山本くんへの気持ちを断ち切ってしまおうと思った。
そうすれば、失意のまま始まろうとしている夏休みも、何か違ったものになるかもしれない。
決意の固まった今なら、何だってできそうな気がした。

だけど、いざチョコレートを手に取ると、私の意志に反して、手が勝手にラッピングを解くことを躊躇う。
チョコレートはあくまでも自分の気持ちを伝えるきっかけであって、相手を振り向かせる魔法のお菓子なんかではないのだから、いつまでも取っておいたって、何の意味もなさないのに。
未練たらしい自分に、苦い溜息が漏れる。

手の中にあるチョコレートをぼんやりと眺めていると、開け放していた窓から、いたずらな夜風が部屋の中を通り抜けた。
人の手で頬を撫でられたような感覚に思わず顔を上げ、窓の外を眺めると、ゆらめくカーテンの隙間から、夜空に浮かぶ大きくてまんまるの満月が見えた。
なぜかそのとき、私は、満月に「こっちにおいで」と誘われたような気がしたのだ。

満月を見上げていると、いてもたってもいられなくなり、急いでそこら辺にあった紙袋にチョコレートを詰め込むと、私は、ママに「コンビニに行ってくる!」と言い残して家を飛び出した。

私が住んでいる新興住宅街の外れに小高い丘がある。
丘の上にはこぢんまりとした児童公園があり、その周囲には視界を遮るものが何もない。
きっとこの辺りで一番、間近で大きな満月が見えるはずだ。
私は満月を証人に、この憂鬱な儀式を早く終わらせ、苦いだけだった初恋と決別することに決めた。

紺色に染まった夜の静かな住宅街を走り抜け、ちょっときつめの坂道を上り切ると、すぐに児童公園の入り口が見えた。

 

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サマー・バレンタイン #3

7時頃、ママに叩き起こされ、着替えてのろのろと夕食の席に着いた。
食欲なんてちっとも沸いてこない。
だけど、ママに怪しまれないためにも食べないわけにはいかなくて、目の前に用意された食事を、無理やり口の中に押し込んだ。
何を食べても全部同じ味がした。

通知表をみたママが、眉間にしわを寄せながら何か言っていたけれど、それらの言葉は全て右の耳から左の耳へと通り抜けてしまい、何も頭に残らなかった。
上の空の娘を見て、ママは諦めたように小言を言うのをやめた。

「ごちそうさま」と手を合わせ、ふと顔を上げると、視界の隅に白くて四角い冷蔵庫の姿が飛び込んできた。
あぁ、チョコレートを処分しなくちゃ……。
ふいに昼間の山本くんの表情が浮かんできて、目のふちがじわじわと熱くなる。
ママの視線が気になって、慌てて俯いた。

食事を終え、後片付けを手伝った後、私は意を決して冷凍庫の中からチョコレートを全部取り出した。
今までチョコレートが占領していた冷凍スペースがぽっかりと空き、ママの喜ぶ顔が目に浮かんだ。

こんな結末になるなんて。
ごめんねチョコレート。

私はまだ冷気をまとったチョコレートを抱え、二階の自分の部屋に持って上がった。

 

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